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夢見る税理士の独立開業繁盛記

神戸市東灘区で開業している駆け出し税理士の、試行錯誤日記

経営者と会社の間で不動産売買を行う場合の確認事項

法人税

お金をかけずに節税を検討する場合、考えられる方法の一つに「含み損がある不動産を売却することによる損失の実現」があります。
例えば帳簿上の価格が1,000円の資産で時価が100円の不動産がある場合、これを100円で売却すると900円の固定資産売却損を計上し、損金の額に算入し所得を圧縮することができます。
この不動産を売却する際、会社や経営者とまったく関係ない第3者に売却する場合にはお互いに損得を考える市場原理が働くので、取引内容が不合理になることもないのであまり問題は生じません。


しかし悩ましいのは、会社が所有する土地を経営者や株主といった同族関係者に売却する場合です。
中小企業の場合、株主や経営者と会社の利害は一致するので、第三者取引のように市場原理が働かず、通常ありえないような不合理な取引も成立してしまいます。
そのため同族関係者と不動産の売買を行う場合には、「いかに不合理な取引でないか」を客観的に確認できるようにしておくことが大切になってきます。


もっとも大切なのは、不動産の売却価額が妥当なものであること。つまり第三者に譲渡する場合に、譲渡価格とすべき「適正な時価」であることが求められます。
しかし適正な時価であること以外にも、その譲渡が単なる租税回避の取引でないことを確認するためには、客観的に見て合理的でおかしくないように「取引の形式」も整えておく必要があります。
特にその取引が実体のない仮装取引とされてしまった場合には、重加算税を課せられる可能性がでてきます。


仮装不動産売買として、納税者の請求が棄却された判決の税務署側の主張を見てみると、確認事項として以下のようなポイントが挙げられています。

広島地方裁判所
平成10年(行ウ)第20号法人税の加算税賦課決定処分取消請求事件(第20号事件)(棄却)(控訴
平成14年3月26日判決【税務訴訟資料第252号順号9093】


三 抗弁(重加算税の賦課決定処分の適法性)
【重加算税/同族グループ法人間の仮装不動産売買】
1、取締役会の出席者
商法260条の2第1項は取締役会の決議方法を規定し、これによれば、取締役会においては取締役は自ら出席して決議に加わることを要し、電話や書面による議決権行使や持ち回り決議も認められないとされている。原告は、平成7年6月26日取締役会を開催し、取締役5名全員の出席によりBに対する第一目録一乃至三の各不動産の売却取引を全会一致で議決したとして、同日取締役会議事録(乙第2号証の1)を作成した。しかし、実際には同議事録に出席取締役として記名押印のある戊及びHは同取締役会に出席していない。Bは、同日取締役会を開催し、取締役4名全員の出席により原告からの同各不動産の購入取引を全会一致で議決したとして、同日取締役会議事録(乙第18号証の1)を作成した。しかし、実際には同議事録に出席取締役として記名押印のある戊は同取締役会には出席していない。このように、わざわざ出席していない取締役を出席したように取締役会議事録の体裁を整えるについて合理的理由は存しない。


2、取得の目的
一般に法人が不動産を取得する場合、資産運用や将来の値上がり利得等を何らかの経済的な目的を有するものであり、取締役会において不動産の購入を議決する場合、購入の目的や経緯、今後の運用や値上がりの見込み等を諮るのが通常である。ところで、商法260条の4第2項は取締役会議事録の記載事項を規定し、これによれば、取締役会議事録には取得の目的及びその結果を記載することになっており、取得の目的とは開会、提案、協議の要領、討議の内容、評決方法及び閉会等を指し、結果とは表決による可決、否決を指すとされている。したがって、取締役会において不動産の購入を議決した場合、その取締役会議事録には、購入の目的や経緯、今後の運用や値上がりの見込み等の審議に係る具体的記載がある筈のものである。しかし、前項のBの取締役会議事録には、第一目録一乃至三の各不動産の購入取引を議決した旨の記載はあるのに、購入の目的や経緯、今後の運用や値上がりの見込み等の審議に係る具体的記載はなく、そのような審議がなされた形跡もなく、同会社が同各不動産を取得すべき合理的理由は見当たらない。


3、売買契約書
通常、不動産の売買(特に高額かつ複数の不動産の場合)に当たっては売買契約書を作成するものであるところ、原告のBに対する第一目録一乃至三の各不動産の売却取引については、高額かつ複数の不動産の取引であるにもかかわらず、いずれも売買契約書を作成していない。売買契約書を作成しなかったことについて合理的理由も認められない。


4、所有名義
一般に、不動産の売買の場合には、売主から買主に対する所有権移転登記を経由するものであるが、原告のBに対する第一目録一乃至三の各不動産の売却取引については、いずれも所有権移転登記を経由していなかった。


5、借入の返済及び抵当権等
抵当権が設定された不動産の売買においては、買主のため売主が抵当権の被担保債権を全額弁済して抵当権を抹消するのが通常であり、仮に抵当権付のまま売買する場合でも、被担保債権者の承認を得るのが通常である。前記柱書き前段のとおり、原告は、第一目録一乃至三の各不動産については、いずれも原告が取得する際に金融機関から借入をしており、借入先等の金融機関の抵当権等の設定登記(同目録一の不動産については借入先のE信用金庫を根抵当権者とする根抵当権設定登記、同目録二の不動産については借入先の株式会社F銀行に対する債務の保証委託先のI株式会社を抵当権者とする抵当権設定登記、同目録三の不動産については借入先の株式会社G銀行に対する債務の保証委託先のJ株式会社を抵当権者とする抵当権設定登記、乙第15乃至第17号証)を経由していた。ところが、原告のBに対する同各不動産の売却取引の日とされる平成7年6月30日以降も、原告は、従前より借入金返済のために設定していた銀行口座から従前同様に同各金融機関に対して返済を続け(乙第3号証の1、第6号証の1,2、第12号証の1)、同各抵当権等の設定登記も抹消しなかった(乙第15乃至第17号証)ほか、同各金融機関に対して同各売却及び同各借入債務のBによる引受について連絡をして承認を得た事実もない。


6、火災保険
一般に、火災保険の付いた建物の売買の場合、売主は従前の火災保険を解約し、買主は新たな火災保険契約を締結するものであるところ、原告が第一目録一乃至三の各不動産の取得後に締結していた火災保険契約(同目録一の不動産に係る契約保険会社はK株式会社、同目録二、三の各不動産に係る契約保険会社はいずれもL株式会社である、乙第4号証の1、乙第10号証の1、乙第13号証の1)は平成7年6月30日以降もそのまま解約することなく継続しており、Bが新たに火災保険契約を締結した事実もない。


7、賃貸料
一般に、賃貸に供している不動産の売買の場合、不動産の賃貸収入は買主の重要な収益項目であり、その管理は当然に売主から買主に移転すべきものである。ところが、原告は、第一目録二の不動産について平成4年11月20日M銀行株式会社に対して賃料月額10万9400円で賃貸し(乙第7号証の1)、同会社から原告名義の銀行口座に当該賃料の振込を受けていたところ、平成7年6月30日以降も平成8年5月分まで従前同様同賃料の振込を受け続け(乙第8号証の1)、かつ原告の収入として計上し、被告が原告に対する税務調査に着手した同月15日の後である同月22日に、同賃料収入のうち平成7年7月以降の分はBの収入であったとして原告の収入から減算した。他方、同不動産の買主である筈のBの方は、同賃料のうち平成7年7月から9月までの分を平成7年9月期の収入金に計上しないまま放置していた。このことは経済人たる法人にとって極めて異常なことというべきである。


8、不動産取得税の申告及び納付
地方税法73条の18第1項は不動産を取得した者に対してその取得事実その他の申告乃至報告義務を課しており、一般に、不動産の売買があった場合、買主は不動産取得税の申告及び納付を行う筈である。ところが、Bは第一目録一乃至三の各不動産についていずれも不動産取得税の申告及び納付を行っていない。


9、他の取引との対比
原告とBとはいわゆる同族関連会社乃至グループ法人の関係にある。原告はその所有に係る第一目録四の不動産(甲名義)を平成7年6月22日同族グループ外のN及びO(後にOに改姓)に対して売却するについて売買契約書を作成し(乙第20号証の1)、同不動産取得時の甲名義の住宅金融公庫からの借入金を同年1月25日に弁済して同公庫の抵当権を同月26日に抹消させ、更にその保証委託先のP株式会社の抵当権を同年9月18日に抹消させ、同月25日売買を原因としてN及びOに対する所有権移転登記を経由するなど通常の取引に際して一般になすべき手続をとっている。このように、原告のBに対する第一目録一乃至三の各不動産の売却取引は、同族グループ関係にない者との売買取引とは明らかに異なっており、不自然、不合理である。

これを見ると、たとえ適正な時価で売買し代金の授受があったとしても、

  • 取締役会議事録や株主総会議事録の記載事項が適当
  • 譲受側が取引を行う、合理的な理由がない
  • 売買契約書を作っていない
  • 所有権移転登記がされていない
  • 担保に入っている場合、借入金や担保がそのまま
  • 保険がそのまま
  • 賃貸料がある場合、譲受側がそれを受け取っていない
  • 譲受側が、不動産取得税を払っていない
  • 第三者との契約と同様の処理を行っていない

といった事実があれば、「お手盛りですね」と取引を否認されてしまうんですよね。
もちろんこれに限定されず取引全体を見て総合勘案されるのでしょうけど、同族会社だからといってなあなあで済ませることなく、形式をきちんと整えておくことも大事なのですよね。


神戸市東灘区御影の会計事務所 小林敬幸税理士事務所です