夢見る税理士の独立開業繁盛記

神戸市東灘区で開業している駆け出し税理士の、試行錯誤日記

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概算取得費に代わるもの

2月決算の申告書が1つ終了して、ほっと一息。紅茶を飲みながらのんびりしていると思い出したのが、今年の確定申告でも意識しながら使うことがなかった次のお話です。


5年以上所有していた不動産を個人が譲渡した場合において、取得費が不明な場合などには通常下記の措置法などで、譲渡価額の5%を概算取得費として控除します。

租税特別措置法
第31条の4(長期譲渡所得の概算取得費控除)
 個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び第61条の規定にかかわらず、当該収入金額の100分の5に相当する金額とする。ただし、当該金額がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする。
 ◆1 その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額
 ◆2 その建物等の取得に要した金額と設備費及び改良費の額との合計額につき所得税法第38条第2項の規定を適用した場合に同項の規定により取得費とされる金額

租税特別措置法基本通達
31の4−1 措置法第31条の4第1項の規定は、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地建物等の譲渡所得の金額の計算につき適用されるのであるが、昭和28年1月1日以後に取得した土地建物等の取得費についても、同項の規定に準じて計算して差し支えないものとする。


ということで、取得費が不明な場合にはこれに従うしかないと思っていたのですが、昨年教えていただいたのが次の国税不服審判所の裁決事例です。
(平12.11.16裁決、裁決事例集No.60 208頁) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所
個人が土地・建物を同時に譲渡した場合において、契約書等土地と建物の取得価額が明らかになる資料がないため、預金から出金した金額を基に取得費を計算しているのですが、購入時の建物の金額がゼロとして出金金額のすべてを土地の取得価額としたところ、更正処分を受けたので審査請求を行ったというケースです。
建物の取得費は、取得時から譲渡時の期間に応じて償却費相当額を取得価額から減ずる必要がありますが、土地の場合は償却費相当額を減らす必要がないため、土地と建物の取得価額が区分されていない場合には、土地の方に取得価額を割り振ったほうが所得計算上有利になります。


こちらの申告に対し、税務署が土地・建物の実際の取得費も区分も不明な場合に合理的な方法として出してきたのが次の方法。

(イ)本件物件の取得費について
 本件物件の取得費については、請求人からその取得に要した費用を明確にする資料の提出はなく、また、原処分の調査(以下「本件調査」という。)によっても実際に要した費用を明らかにできなかったことから、合理的な算定方法によらざるを得ない。
 ところで、土地と建物を一括して譲渡し、そのいずれの取得価額も不明である場合の土地・建物の取得費を算定する方法には、
〔1〕租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》を適用する方法、
〔2〕土地の取得価額は土地の取得時の売買実例から算定し、建物の取得価額は譲渡価額の総額から土地の譲渡時の売買実例価格を差し引いて算出された建物の譲渡価額から減価償却費を控除する方法、
〔3〕土地と建物の固定資産税評価額を基に算定する方法及び
〔4〕建物の取得価額を着工建築物構造別単価(別紙1)(以下「建築物単価」という。)から算定し、土地については市街地価格指数(別紙2)を基に算定する方法
などが考えられる。
 しかし、〔1〕の方法によれば、本件物件の取得費が一定率で計算され実額等がまったく反映されないこと、〔2〕の方法によれば、土地の譲渡及び取得に係る売買実例がなく世情を反映した確実な指標とする合理的理由が見当たらないこと、〔3〕の方法によれば、画一的で個別事情が反映されず、実勢価額が形成されないことが考えられるなど、これらの方法を用いて算定することには合理的理由が見当たらない。
 そこで、〔4〕の方法によれば、取得費の算定の基になる建築物単価がN調査会(以下「調査会」という。)が公表した統計的な数値であることから、市場価格を反映したより近似値の取得費が計算できることになり、合理的であると言える。

というように、概算取得費の5%より、「着工建築物構造別単価」や「市街地価格指数」を基準にして算定する方が合理的としています。
このうち「着工建築物構造別単価」は、土地と建物との取得価額の区分が明らかでない場合に使う「建物の標準的な建築価額」と同じようですが、教えてもらってへぇ〜と思ったのが譲渡価額から「着工建築物構造別単価」で計算した建物の取得費を差し引いた残額に、この「市街地価格指数」から計算した割合を乗じた金額を土地の取得費としているところです。

これだと、たとえば6大都市の商業地を2010年に譲渡した場合、次の割合を残額にかければ土地の取得価額になるということですね。
昭和42年の取得だと、「30.5/75.0=40.6%」
平成3年の取得だと、「519.4/75.0=692.5%」
平成12年の取得だと、「100.0/75.0=133.3%」
この割合だと、5%で計算するより往々にして有利な場合があり得そうです。しかし平成3年は、今の7倍近い値段がついていたのですね・・・。
(ちなみにこの「市街地価格指数」は、統計局のHPで公開されています。)


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